これから児童養護施設で働こうと考えている方が、知っておいた方が良いことを3つに絞ってお伝えします。
児童養護施設のケアワーカー(児童指導員)は、
『アセスメント』
『トラウマ』
『アタッチメント』
について、勉強をする必要があります。
以下にそれぞれその理由を説明します。
それぞれの細かなことについては、別の記事を参考にしてください。
1.アセスメント
現在、児童養護施設に入所する子どもの約7割はなんらかの虐待を経験していると言われています。
そんな、心に傷を負った子どもの養育をするためには、その子どもの状態を知り、どのような支援が必要かを計画的に実行する必要があります。
アセスメントとは、
子どもの客観的な情報から、自分なりの考えを出して、「私は、〇〇だと思います。それは△△が理由です。なので、□□の支援が必要だと考えます。」
と一人称での、発言につながることを言います。
『客観的な情報から自分なりの見解を導くこと』です
そのために、できる限り多くの客観的情報を集めて、そこから予測できることを考え、必要な支援に結びつけます。
本で学んだり、研修に参加するのも、このアセスメントの精度を上げることが目的だといえます。
アセスメントは、事実を探るのではなく、精度の高い推測を目指すのです。
客観的な情報とは、
「入所の経緯」、「年齢・性別」、「知能検査の結果」、「病歴」、「家族歴」等、誰が見ても同じ情報のことです。
その情報を自分なりにかみ砕いて、その子どもの行動の背景を見立てて、支援方針を作ります。
今まで、児童養護施設はとにかく毎日のルーティーンを問題なく、進めることに精一杯でした。しかし、入所児童の多くが、心の傷を抱えていたり、愛着に課題を抱えている中で、無策で挑むのは無謀です。
アセスメントのために重要な点を3点に絞って伝えます。
①情報収集
初めに伝えましたが、客観的な情報収集はとても大切です。何の情報もなくアセスメントはできません。もし、情報を持たずアセスメントをしているとすれば、地図を持たずに一度も行ったことのない場所に旅行に行っているようなものです。
これは、児童相談所からもらえる資料が役に立ちます。入所の時に、心理判定をお願いすることができるのであれば、お願いした方が良いと思います。
そして、入所後の子どもの日々の生活で見られる行動についても情報になります。
「食べ物の好き嫌い」、「ご飯の食べ方」、「寝つき、中途覚醒」、「言葉使い」等々、生活の中には情報がたくさんあります。
ここで注意するのは、行動を見るということです。情報は基本的に誰が見ても同じである必要があります。解釈と情報は区別しないといけません。
例えば
情報:算数の宿題をせずにテレビを見ている。
解釈:算数の宿題をめんどくさがり、テレビに没頭している。(観察者の主観)
二つの違いは分かっていただけたでしょうか?
私たちが集めなければいけないのは情報です。できる限り、自分の解釈を入れずにまずは客観的な視点でとらえないといけません。意外と難しく、多くの方がここで躓きます。
②知識の獲得
本や研修などで知識を獲得します。自己研鑽ともいえるでしょう。
いくら情報があっても、その情報から何を読み取ることができるのかは自分が持っている知識が影響します。
情報は基本的に平等に与えられます。しかし、同じ情報をもらっているはずなのに子どものことをよく理解しているように見えたり、自分が思いもつかなかった発想を持っている人に出会ったことがあると思います。これは知識の量の違いが大きく影響しています。
例えば
レントゲンで考えてみると、レントゲン写真は情報です。そこにはすべてが写っていますが、知識がない人がそれを見ても何もわかりません。一方でお医者さんはその情報から様々な病気を発見できるのです。
これは子どものアセスメントでも一緒です。
③子どもの目標設定
子どもにこうなってほしいという目標を考えます。
ここで大切なのは、
〇〇しないようになる。(×)
〇〇できるようになる。(〇)
例えば
他の子どもをよく叩いてしまう子どもがいたときに
A、叩かなくなる。(×)
B、(叩くのではなく)口で伝えたいことを言えるようになる。(〇)
どちらの目標がより、子どもにしてほしい行動でしょうか?(〇〇しなくなるは行動ではありませんが)
子どもが叩かなくなったけど、物を壊すなど別の問題行動になっては意味がありません。言語表現が苦手な子どもや感情のコントロールが苦手な子どもが暴力を振るうことがある場合、子どもは暴力以外の表現方法がないためその方法をとっていると考えます。その唯一の方法を禁止だけされてはどうしていいかわかりません。代わりにとるべき行動を教えることが必要になります。目標は支援者が望む行動にする必要があります。
2.トラウマ
最初にも書きました、児童養護施設に入所する子どもの約7割はなんらかの虐待を経験していると言われています。
そのため、施設養育で重要な支援の一つが、
『虐待からくるトラウマ症状への支援』
です。
子どもが虐待を受けるとその記憶の多くは、『トラウマ記憶』と呼ばれる自分ではコントロールできない記憶として保存されます。
それによって、様々な症状が出るとされていて、
大きくは分けて、
「再体験」
あたかもそのつらい場面に今いるかのようにその時の感覚を体験する。
「回避」
その体験を思い起こさせるような場所、人、食べ物、場面等を避ける。
「過覚醒」
常に緊張が高く、少しの物音でびっくりしたり、些細なことでイライラする。
といった症状があげられます。
最近では、CPTSD(複雑性PTSD)という疾病が、国際疾病分類第11版(ICD-11)に新たな精神疾患として設けられました。この精神疾患に関する詳しい説明は省きますが、その症状としては、『感情調整の困難』、『否定的な自己概念』、『対人関係の困難』の機能的障害が続くといわれています。これらの症状を聞いて、施設の職員さんはピンとくるのではないでしょうか。
これらにアプローチしなければいけない1番の理由は、この症状が子どもの健やかな成長に使うエネルギーを浪費させるからです。
そして、この症状は日常生活の中で現れるため、トラウマについての知識がないと対応が困難になります。
例えば、
子どもが、夜なかなか寝付けない状況があったとしましょう。
これに対して、「いつまで起きてるんだ。早く寝なさい。」というのは、ある意味普通の対応です。
ここにトラウマの知識があれば、もしかしたらこの子は家にいた時、夜に何か不安な体験をしていたのかもしれない。だから、夜寝ることができないのかもしれないと仮説が立てられる
トラウマの知識を使って、アセスメントができるとその後の対応は「早く寝なさい」にはならないでしょう。
どう対応したら良いかがわからなくても、その知識を持っていることで、子どもへの接し方は変わるのです。これをTIC(トラウマインフォームドケア)と呼びます。これについては、別の記事で説明します。
現在、施設職員や里親も含めて、トラウマの知識なしに虐待を受けた子どもの養育をしていくことは大変困難です。トラウマについての知識は必須と言えるでしょう。
3.アタッチメント(愛着)
アタッチメントは、子どもが不安を感じた時に愛着対象に接近することでその不安を平常時に戻す生まれ持った生存機能の一つです。
赤ちゃんが不安になったり、不快な感覚を持って泣いた時に親が抱っこすることで泣き止むのがこの愛着の機能と言えます。
施設養育の中で、よく勘違いされることの一つとして、アタッチメントは不快な感情を平常に戻すことを指しており、それ以上のプラスにすることではないということです。
子どもと遊ぶことで、愛着関係を作るというのはある意味間違いで、子どもが困っている時にいかにそれを正確にキャッチして、支援することでその不安を解消するのか、この人に相談すると不安は解消できると思われる相手になるかが大切です。
もちろん、子どもと遊ぶことで関係性が深まることを否定するわけではありませんが、愛着という考え方において、よく勘違いされるので気をつけてください。
よく遊ぶ人と、子どもが悩みを相談する人はどちらが愛着対象かは想像するとわかるのではないでしょうか。
まとめ
以上の3つが、私が児童養護施設で働く職員がまず初めに学ぶと役に立つのではないかと思うことになります。
『アセスメント』
『トラウマ』
『愛着』
はそれぞれここでは書ききれていない内容がたくさんありますので、別の記事でまとめようと思います。
併せてそちらをお読みいただくと、より理解が深まるのではないかと思います。
では、一緒に子どもの明るい未来を目指しましょう。バイバイ(^^)/~~